社内弁理士のチャレンジクレーム

チャレンジクレームとは「実務家の間に通用する俗語で『だめもと』のチャレンジ精神で審査を受ける限定の少ない広いクレーム」をいいます。社内弁理士が「だめもと」で抽象的な理論と実務の架橋を目指します。

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MicrosoftとTomTomの訴訟とGPL違反 

2009/3/3のエントリで紹介したマイクロソフトとTomTomの訴訟であるが、この訴訟の本質はマイクロソフトから受ける特許のライセンスがTomTomのGPL違反につながることである。この点が日本の記事でも紹介された(米国の記事の翻訳だが)(ZDNet3月9日付記事)。今回は特許ライセンスとGPL違反の関係について述べたい。

まずGPLについて。GPLとはGNU General Public LicenseというOSSライセンスの最も有力なものの一つである。wikipediaは以下のように説明している。

GPLは、プログラムの著作物の複製物を所持している者に対し、概ね以下のことを許諾するライセンスである。

1.プログラムの実行
2.プログラムの動作を調べ、それを改変すること(ソースコードへのアクセスは、その前提になる)
3.複製物の再頒布
4.プログラムを改良し、改良を公衆にリリースする権利(ソースコードへのアクセスは、その前提になる)
http://ja.wikipedia.org/wiki/GNU_General_Public_License

LinuxはGPLに基づいて頒布されている。つまりLinuxを利用している企業はGPLのライセンシーである。

次にGPL違反となる理由について。先のZDNet記事はSamba(Linuxと同様に著名なOSS)の開発者Jeremy Allison氏の発言を引用している。この発言の出所はAllison氏がイギリスのIT系ジャーナリストによるブログへつけたコメントである。

まずAllison氏は次のように言う。

この事件はクロスライセンスですべてうまくいくケースではない。TomTom(や他の企業)が特許クロスライセンスを締結すれば(Linuxカーネルが適用している)GPL v2の7条によってLinuxカーネルを頒布する権利を完全に失う。

ここでGPL v2の7条は以下のものである(オープンソースグループの日本語訳)。

7. 特許侵害あるいはその他の理由(特許関係に限らない)から、裁判所の判決あるいは申し立ての結果としてあなたに(裁判所命令や契約などにより)このライセンスの条件と矛盾する制約が課された場合でも、あなたがこの契約書の条件を免除されるわけではない。もしこの契約書の下であなたに課せられた責任と他の関連する責任を同時に満たすような形で頒布できないならば、結果としてあなたは『プログラム』を頒布することが全くできないということである。例えば特許ライセンスが、あなたから直接間接を問わずコピーを受け取った人が誰でも『プログラム』を使用料無料で再頒布することを認めていない場合、あなたがその制約とこの契約書を両方とも満たすには『プログラム』の頒布を完全に中止するしかないだろう。
http://www.opensource.jp/gpl/gpl.ja.html

この条項から「特許ライセンスにより、GPLの条件と矛盾する制約を課せられた場合、頒布が全くできなくなる」ことが分かる。 GPLの条件とは例えば「複製・頒布するにはソースコードを開示しなければならない」という条件である(3条)。ここでGPL v2の3条は以下のようになっている。(オープンソースグループの日本語訳)。

3. あなたは上記第1節および2節の条件に従い、『プログラム』(あるいは第2節における派生物)をオブジェクトコードないし実行形式で複製または頒布することができる。ただし、その場合あなたは以下のうちどれか一つを実施しなければならない:

a) 著作物に、『プログラム』に対応した完全かつ機械で読み取り可能なソースコードを添付する。ただし、ソースコードは上記第1節および2節の条件に従いソフトウェアの交換で習慣的に使われる媒体で頒布しなければならない。あるいは、

b) 著作物に、いかなる第三者に対しても、『プログラム』に対応した完全かつ機械で読み取り可能なソースコードを、頒布に要する物理的コスト を上回らない程度の手数料と引き換えに提供する旨述べた少なくとも3年 間は有効な書面になった申し出を添える。ただし、ソースコードは上記 第1節および2節の条件に従いソフトウェアの交換で習慣的に使われる媒体で頒布しなければならない。あるいは、

c) 対応するソースコード頒布の申し出に際して、あなたが得た情報を一緒に引き渡す(この選択肢は、営利を目的としない頒布であって、かつあなたが上記小節bで指定されているような申し出と共にオブジェクトコード あるいは実行形式のプログラムしか入手していない場合に限り許可される)。


結論としては「GPLの条件と矛盾する制約を課された状態でプログラムを頒布する」ことがGPL違反となる。

次にマイクロソフトの戦略について。マイクロソフトの狙いは特許クロスライセンス中にGPLの条件と矛盾する制約を入れることで、相手方がLinuxを頒布(販売)するとGPL違反になるように仕向けることだ。これによってLinuxの頒布(販売)を制限することができなくなる。そうすればマイクロソフトのWindowsは現状の独占的地位を維持できる。これがマイクロソフトの特許クロスライセンス活動の基本的な戦略であると思われる。Allison氏も次のように言う。

マイクロソフトの意図はTomTomにGPL違反を犯させること又はLinuxからマイクロソフト製ソフトウェアへ切り替えさせることだ。

このマイクロソフトの戦略はスケールが大きい。GoogleがBook Searchに関してとったクラスアクションを使ってベルヌ条約を逆手にとる戦略(2009/2/25のエントリ参照)ととも米国企業の先進性が見て取れる。

最後にこの戦略の結果はどうなるか考えたい。まずGPL違反を犯すとどうなるのか。端的にライセンスを受けられないわけだから、プログラムの利用(頒布など)が著作権侵害になる。マイクロソフトが著作権を有するコードを含むOSSについてはマイクロソフトが著作権を行使できるだろう。

マイクロソフトとクロスライセンスを締結した多くの企業はGPL違反について検討した上で契約を締結しているのだろうか。特に日本企業では、特許のライセンスを担当する部署とOSSを含めソフトウェアのライセンスを担当する部署が別である場合がある。この場合、両部署の連携がなければマイクロソフトとの交渉においてGPL違反を回避するような対応が取れない可能性がある。Allison氏は次のように断定的に言う。

マイクロソフトと特許クロスライセンスを締結している他の多くの企業はひっそりと(silently)GPL違反を犯している。

これが現実でないことを期待する。ただマイクロソフトがLinuxに対し訴訟という公開の手段をとったということは、彼らがGPL違反の種まきは十分済んだと考えていることを意味するかもしれない。

以上述べたように、特許ライセンスに含まれるある種の制約は結果的にGPL違反をもたらす。マイクロソフトの狙いはライセンシーにGPL違反をもたらすような特許ライセンスの契約を締結することで、Linuxの頒布を制限し、Windowsの独占を維持することである。このようなマイクロソフトのスケールの大きい戦略に対しライセンス契約を締結した企業がどのような対応を取ったのか、今後それが明らかになるか注目したい。
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[ 2009/03/10 22:24 ] 知的生産 | TB(0) | CM(0)
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