社内弁理士のチャレンジクレーム

チャレンジクレームとは「実務家の間に通用する俗語で『だめもと』のチャレンジ精神で審査を受ける限定の少ない広いクレーム」をいいます。社内弁理士が「だめもと」で抽象的な理論と実務の架橋を目指します。

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権利範囲の不明確さは知的財産権の重要な特徴である 

2009/3/24のエントリで「刑法学的に知的財産法は構成要件がもっとも不明確な特別刑法の一つではないだろうか」というコメントを紹介し、その理由は知的財産権の「権利範囲の不明確さ」だろうと書いた。この「権利範囲の不明確さ」は知的財産権の重要な特徴だと思われる。今回はなぜ「権利範囲の不明確さ」が知的財産権の重要な特徴なのかについて書きたい。

2009/2/15のエントリで「知的財産権は所有権であるべきか?」という知財における根本的な問題を紹介した。この問題に対し「特許権は権利範囲が不明確であるため所有権ではない」という回答がなされている。この回答は筆者には説得力があるように思える。よって「権利範囲の不明確さ」は知的財産権の重要な特徴であると考える。

先の回答をしているのは2009/2/8のエントリで紹介した『Patent Failure』の著者ボストン大学ロースクールのJames Bessen氏らである。いわく「権利範囲が不明確なものは所有権ではない」という。

If you can't tell the boundaries, it ain't property.

(『Patent Failure』p.8)
http://press.princeton.edu/chapters/s8634.pdf


Bessen氏らは特許権と土地の所有権とを比較して特許権の権利範囲が不明確だという。『Patent Failure』におけるBessen氏らの結論は「特許権は権利範囲が不明確であるため(産業分野によっては)所有権として機能していない」というものであろう。

なぜ所有権として機能しないといえるのか。その理由の一つは不明確な権利が物権的な排他性を持つことで引き起こされる「取引コスト」増大の問題だといえる。「取引コスト」増大の問題については本ブログでも何度か取り上げた(例えばこのエントリこのエントリ)。「取引コスト」の増大は単純に社会厚生にとって悪影響である。

この悪影響が大きいため現在さまざまな対策が検討されているのだろう。特許法の抜本改正として話題になった特許制度研究会における「特許権の効力の見直し」もその流れの上にあるのだろう。特許制度研究会の第2回配布資料が公開されている。
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[ 2009/04/06 22:17 ] 知的生産 | TB(0) | CM(4)

休眠特許が多い要因は侵害立証性のない特許が多いこと 

2009/3/9のエントリに続き今回も侵害立証性(侵害立証容易性)について述べたい。今回は休眠特許(未実施特許)との関連である。

「休眠特許が多い」という問題はよく指摘されている。東京工業大学の田中義敏准教授は特許庁の調査で70%(100万件中70万件)が休眠特許だという。特許庁がどうやって統計を取るのか疑問はあるが、休眠特許が多いという一般的な認識はあると思われる。

休眠特許が多い要因として権利化の段階において、特許性に比して侵害立証性に対する配慮が少ないという点を指摘したい。侵害立証性がない特許は第三者に活用できないため自社で実施しない限り休眠特許となるためだ。権利化段階における侵害立証性への配慮とは、「もしこのクレームで登録になったとして、第三者が実施した場合に侵害立証はどのように行えるか?」と問うことだ。

これは田中氏の「権利化における新規性・進歩性はいかにあるべきか、といったテクニックに知財部門の問題意識が偏っている」という指摘を裏からみたものともいえるだろう。また田中氏が休眠特許の多い要因として指摘する「知財部門にとって権利化が至上命題になっている」こともあるだろう。

なお自社で実施する発明についても同様に侵害立証性に配慮すべきだ。具体的には「第三者がこのクレームの特許を持っていたら、第三者は自社の侵害を立証できるか?」を問うべきだ。2009/2/13のエントリでのべたように侵害立証性がない発明であれば特許出願はせず営業秘密として管理すべきである。
[ 2009/03/13 23:17 ] 知的生産 | TB(0) | CM(2)

MicrosoftとTomTomの訴訟とGPL違反 

2009/3/3のエントリで紹介したマイクロソフトとTomTomの訴訟であるが、この訴訟の本質はマイクロソフトから受ける特許のライセンスがTomTomのGPL違反につながることである。この点が日本の記事でも紹介された(米国の記事の翻訳だが)(ZDNet3月9日付記事)。今回は特許ライセンスとGPL違反の関係について述べたい。

まずGPLについて。GPLとはGNU General Public LicenseというOSSライセンスの最も有力なものの一つである。wikipediaは以下のように説明している。

GPLは、プログラムの著作物の複製物を所持している者に対し、概ね以下のことを許諾するライセンスである。

1.プログラムの実行
2.プログラムの動作を調べ、それを改変すること(ソースコードへのアクセスは、その前提になる)
3.複製物の再頒布
4.プログラムを改良し、改良を公衆にリリースする権利(ソースコードへのアクセスは、その前提になる)
http://ja.wikipedia.org/wiki/GNU_General_Public_License

LinuxはGPLに基づいて頒布されている。つまりLinuxを利用している企業はGPLのライセンシーである。

次にGPL違反となる理由について。先のZDNet記事はSamba(Linuxと同様に著名なOSS)の開発者Jeremy Allison氏の発言を引用している。この発言の出所はAllison氏がイギリスのIT系ジャーナリストによるブログへつけたコメントである。

まずAllison氏は次のように言う。

この事件はクロスライセンスですべてうまくいくケースではない。TomTom(や他の企業)が特許クロスライセンスを締結すれば(Linuxカーネルが適用している)GPL v2の7条によってLinuxカーネルを頒布する権利を完全に失う。

ここでGPL v2の7条は以下のものである(オープンソースグループの日本語訳)。

7. 特許侵害あるいはその他の理由(特許関係に限らない)から、裁判所の判決あるいは申し立ての結果としてあなたに(裁判所命令や契約などにより)このライセンスの条件と矛盾する制約が課された場合でも、あなたがこの契約書の条件を免除されるわけではない。もしこの契約書の下であなたに課せられた責任と他の関連する責任を同時に満たすような形で頒布できないならば、結果としてあなたは『プログラム』を頒布することが全くできないということである。例えば特許ライセンスが、あなたから直接間接を問わずコピーを受け取った人が誰でも『プログラム』を使用料無料で再頒布することを認めていない場合、あなたがその制約とこの契約書を両方とも満たすには『プログラム』の頒布を完全に中止するしかないだろう。
http://www.opensource.jp/gpl/gpl.ja.html

この条項から「特許ライセンスにより、GPLの条件と矛盾する制約を課せられた場合、頒布が全くできなくなる」ことが分かる。 GPLの条件とは例えば「複製・頒布するにはソースコードを開示しなければならない」という条件である(3条)。ここでGPL v2の3条は以下のようになっている。(オープンソースグループの日本語訳)。

3. あなたは上記第1節および2節の条件に従い、『プログラム』(あるいは第2節における派生物)をオブジェクトコードないし実行形式で複製または頒布することができる。ただし、その場合あなたは以下のうちどれか一つを実施しなければならない:

a) 著作物に、『プログラム』に対応した完全かつ機械で読み取り可能なソースコードを添付する。ただし、ソースコードは上記第1節および2節の条件に従いソフトウェアの交換で習慣的に使われる媒体で頒布しなければならない。あるいは、

b) 著作物に、いかなる第三者に対しても、『プログラム』に対応した完全かつ機械で読み取り可能なソースコードを、頒布に要する物理的コスト を上回らない程度の手数料と引き換えに提供する旨述べた少なくとも3年 間は有効な書面になった申し出を添える。ただし、ソースコードは上記 第1節および2節の条件に従いソフトウェアの交換で習慣的に使われる媒体で頒布しなければならない。あるいは、

c) 対応するソースコード頒布の申し出に際して、あなたが得た情報を一緒に引き渡す(この選択肢は、営利を目的としない頒布であって、かつあなたが上記小節bで指定されているような申し出と共にオブジェクトコード あるいは実行形式のプログラムしか入手していない場合に限り許可される)。


結論としては「GPLの条件と矛盾する制約を課された状態でプログラムを頒布する」ことがGPL違反となる。

次にマイクロソフトの戦略について。マイクロソフトの狙いは特許クロスライセンス中にGPLの条件と矛盾する制約を入れることで、相手方がLinuxを頒布(販売)するとGPL違反になるように仕向けることだ。これによってLinuxの頒布(販売)を制限することができなくなる。そうすればマイクロソフトのWindowsは現状の独占的地位を維持できる。これがマイクロソフトの特許クロスライセンス活動の基本的な戦略であると思われる。Allison氏も次のように言う。

マイクロソフトの意図はTomTomにGPL違反を犯させること又はLinuxからマイクロソフト製ソフトウェアへ切り替えさせることだ。

このマイクロソフトの戦略はスケールが大きい。GoogleがBook Searchに関してとったクラスアクションを使ってベルヌ条約を逆手にとる戦略(2009/2/25のエントリ参照)ととも米国企業の先進性が見て取れる。

最後にこの戦略の結果はどうなるか考えたい。まずGPL違反を犯すとどうなるのか。端的にライセンスを受けられないわけだから、プログラムの利用(頒布など)が著作権侵害になる。マイクロソフトが著作権を有するコードを含むOSSについてはマイクロソフトが著作権を行使できるだろう。

マイクロソフトとクロスライセンスを締結した多くの企業はGPL違反について検討した上で契約を締結しているのだろうか。特に日本企業では、特許のライセンスを担当する部署とOSSを含めソフトウェアのライセンスを担当する部署が別である場合がある。この場合、両部署の連携がなければマイクロソフトとの交渉においてGPL違反を回避するような対応が取れない可能性がある。Allison氏は次のように断定的に言う。

マイクロソフトと特許クロスライセンスを締結している他の多くの企業はひっそりと(silently)GPL違反を犯している。

これが現実でないことを期待する。ただマイクロソフトがLinuxに対し訴訟という公開の手段をとったということは、彼らがGPL違反の種まきは十分済んだと考えていることを意味するかもしれない。

以上述べたように、特許ライセンスに含まれるある種の制約は結果的にGPL違反をもたらす。マイクロソフトの狙いはライセンシーにGPL違反をもたらすような特許ライセンスの契約を締結することで、Linuxの頒布を制限し、Windowsの独占を維持することである。このようなマイクロソフトのスケールの大きい戦略に対しライセンス契約を締結した企業がどのような対応を取ったのか、今後それが明らかになるか注目したい。
[ 2009/03/10 22:24 ] 知的生産 | TB(0) | CM(0)

「侵害立証性(侵害立証容易性)のあるところ事件あり」 

2009/2/13のエントリで「侵害立証性のある発明を出願するのが基本的な知財戦略である」と述べた。侵害立証性のない特許を取得しても第三者への活用が困難であるためだ。当然のことだが侵害立証性のない特許が侵害訴訟に用いられることはない。よって侵害立証性のないところに事件はない。今回は今まで当ブログでふれてきた事件が侵害立証性のある分野での事件であることを確認したい。

2009/3/5のエントリで標準化には侵害立証性を高める効果があるというNTTの渡部比呂志氏の論文を紹介した。当然のことだが標準化技術はその内容が公開されるためだ。また先の論文でもふれられているように標準化には侵害の回避を不可能にする効果もある。これらの効果が標準化の分野で特許に関連する事件を起こす要因である。例えば2009/3/6のエントリで紹介したVizioと船井電機の事件である。

同様にOSS(特にGPL)には侵害立証性を高める効果がある。OSSもその内容が公開されるためだ。ここからOSSの分野では特許に関連する事件が起きやすいといえる。他の要因もあって今のところOSSに関する特許問題はそれほど多くないといえるだろう。しかし、例えば2009/3/3のエントリで紹介したマイクロソフトとTomTomの事件のような事件は今後増加する可能性がある。

標準化にしてもOSSにしても「侵害立証性のあるところ事件あり」といえる。よって侵害立証性は重要である。ここから侵害立証性の高い標準化やOSSの分野における特許は重要であるともいえる。
[ 2009/03/09 22:17 ] 知的生産 | TB(0) | CM(0)

「累積ロイヤリティ」はVizioと船井の特許問題の要因である 

2009/3/6のエントリでVizioと船井の特許問題について紹介した。

VizioはITCで敗訴しており2009年4月までにこの特許問題を解決しなければ製品が差し止められてしまうという。なぜ差止めのリスクを背負いつつ徹底抗戦するのか。背景には2009/3/5のエントリで紹介した「累積ロイヤリティ(Royalty Stacking)」問題があるように思える。

日経BPの記事中でVizioが「19型液晶テレビでは,部材費の15%を知的財産権関連の費用が占めている」と言っている。これに船井のロイヤリティが蓄積されると、差止めを免れたとしても事業が立ち行かなくなるのだろうか。もしそうならば「累積ロイヤリティ」の問題が差止めと同程度に大きなリスクだということだ。

また、この事件は差止め(や「累積ロイヤリティ」)というリスクを回避するためならば、企業は「あらゆる手を打つ」ことの例証ともいえる。既にVizioは船井に対し反トラスト法でも訴訟を起こしている。例えばこの記事

(自分も含め)企業知財の担当者は視野が特許に限定されがちだが、この事件くらいもつれると反トラスト法を含め「あらゆる手を打つ(打たれる)」ことを想定する必要がある。
[ 2009/03/07 22:51 ] 知的生産 | TB(0) | CM(0)


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